H小説

評価ボタン
☆好き!! 1 ◎良い! 0 ○普通 0

TOP > MAIN > 投稿小説 > 妖魔戦記 > 妖魔戦記3話

妖魔戦記

魔獣姫 作


3話

ロザリーは気付くと薄暗い部屋の中に居た。とても広い円形の部屋で、隙間無く積まれた石で作られている。おそらく、建物全体がそうなのであろう。壁には窓は一つも無く、明かりとしてろうそくが数本あるだけだ。彼女は縛られたままベッドに寝かされており、傍には机やタンスがある。誰かの部屋であることが一目でわかる。
「やあ、お目覚めですかお姫様?」
かすれ声が部屋中に響いた。声のしたほうを見ると、椅子にもたれかかるように座っているハルファスがいた。仮面と鎧は装着しておらず、シャツとズボンという質素な部屋着のような服装である。彼の白い顔が薄闇の中で浮かび上がってはっきり見える。ろうそくの明かりで、赤い目が星のように光っている。
「3日間おねんねしてた気分はいかがです?」
「ここは・・・どこなの?」
「我が居城の自室です。」
ハルファスは手で部屋全体を指し示しながら答えた。
「ここには僕と貴女以外、妖精も魔族も誰も居ません。いくら騒いでも無駄ですよ。」
ベッドに転がっているロザリーに告げるハルファス。
「つまり、私を捕虜にしたっていう訳?」
「まあ、そういうことですね。」
「お母様は!?他の皆は!?」
「さあねぇ。他の所は部下達に任せてましたからねぇ。ま、あいつらのことですから、皆殺しかもしれませんねぇ。」
ニヤニヤ笑いながらハルファスは他人事のように言う。
「ゆ、許さない!!」
ハルファスに憎しみの眼差しを向けた途端、ロザリーの体の中を痛みが駆け抜けた。
「きゃあああああああああ!!」
痛みに叫び声を上げてうずくまる妖精を、面白い見世物でも見るような表情で見つめるピジョンブラッドアイの魔族。
「あ、そうそう。脱走しようとしたり、僕を殺そうなんて考えるのはやめておきなさい。首輪から電流が流れるようになっていますから。」
楽しそうにハルファスが自らの首をちょいちょいっと指した。ロザリーが慌てて自分の首を見ると、何か固い物が巻かれていた。
「何よこれ?」
「僕の特製の発明品です。装着者の妖力、魔力を吸収します。それに捕虜にあるまじき思想や行動をしようとすると、それを読み取り、装着者に電流を流すという優れものです。」
目の残酷な光を除けば、まるで自分の宝物を自慢するような口調である。
「ですから、痛い目を見たくなければ、大人しくしていることですね。」
赤い瞳を光らせ、勝ち誇った笑みで忠告する魔族。だが、ロザリーはそれくらいで降参するような妖精ではない。
「大人しくするぅ?冗談じゃないわ!なによこんなもの!」
ロザリーは首輪を外そうとしたが、縛られているのでは何もできなかった。それでも身をよじり、懸命に首輪を外そうとした。
「ははは、無駄ですよ無駄ぁ!そんな程度で外れるほど脆くできてませんよ!」
声高らかに嘲笑するハルファス。顔の醜い傷痕が歪む。
「外しなさいよ!!」
「嫌だと言ったら?」
「外さなかったことを後悔させてあげるわ!!」
「ほう、どんな風に?実際に今やって見せて頂きましょうか?うん?」
ハルファスは椅子から立ち上がり、ベッドのほうにツカツカと歩み寄ってくる。白い顔に残酷な嘲りの微笑みを貼り付けたまま。
「ほら、やって見せて下さいよ。え?どう後悔させてくれるんですか?」
ベッドの端に腰かけ、片手でロザリーの顎をつまみ、クイッと自分のほうへ向けるハルファス。
「お、覚えてなさい!!絶対にこの報復はさせてもらうわ!!」
悔しさと電流の痛みで水色の目に涙を溜めながら、ハルファスを睨みつけるロザリー。しかし、睨まれたハルファスはひるむことなく嘲り笑い続ける。
「さあ?覚えてられますかねぇ?それより、自分の身のほうを案じたほうが、利口なんじゃありませんか?」
「え?どういうこ!?」
ロザリーの言葉の続きは、突然の口付けで紡がれることは無かった。
「ふふ、こういうことです。」
唇を離し、魔族の青年は真っ赤な舌で唇を舐めながら答えた。
「い、いきなり何を!?」
唇を奪われ、ロザリーは動揺していた。
「決まってるでしょう。味見ですよ。味見。」
にたりと不気味に笑うハルファス。
「あ、味見って、私をどうする気?」
「おや?ロザリー様ともあろう方が、ご存じない?味見と言ったら、食べるに決まってるじゃありませんか。」
言うと同時にハルファスはロザリーの服を破いた。
「いやああああああああああ!!なにするのよ!!」
あられもない姿にされ、必死で体を隠そうとするが、縛られた身では上手くできない。
「食べるのに服は邪魔ですからね。邪魔な物を除去しただけです。」
ハルファスの目がロザリーの美しい裸体を見回す。眼振が起きたのか、目がギョロギョロ左右に動いている。
「さて、どこから頂きますか・・・。歯応えのありそうな腕か、柔らかそうな足か、それとも肝臓か、心臓か・・・。」
まるでケーキをどこから食べようかと悩む子供のように、自分の体を見る赤い星におののくアクアブルーアイ。
「・・・・・よし。まずは腕から頂くことにしますか。」
柳のように細い白い手が、華奢な腕を掴んだ。白い手は見た目よりも力があった。
「やああああああ!!やめて!!」
恐怖で悲鳴を上げる赤毛の妖精。体を必死でくねらせ、白い手から逃れようともがくが、力強い細い手は離してはくれない。
「僕は今腹が減ってるんです。やめることはできません。」
残忍な笑みで答える白い魔族。口元から鋭い白い牙が覗く。
「やめて!!離して!!」
涙で潤んだ瞳で訴える。その目はまるで清らかな2つの湖だ。湖から水が一滴こぼれた。
「ふん、仕方ありませんね。今回だけは見逃してあげましょう。」
そう言ってロザリーの華奢な腕を放すハルファス。ロザリーは一瞬安堵したが、次の言葉を聞いて、再び恐怖で身を凍らせることとなった。
「ただし、これから10分間、拷問に声を出さずに耐えられたらですが。」
サディスティックな光を放つピジョンブラッドアイ。
拷問への恐怖に見開くアクアブルーアイ。

椅子に腰かけ、なにやらルーペを片手に読書をしている白い魔族。彼にとってはこんな薄暗い中でも字が読めるらしい。
「おやおや、まだ5分も経ってませんよ。」
視線をページから離し、ベッドのほうに向ける。
「これじゃあうるさくて、読書に集中できないじゃありませんか。」
咎めるような言い草だが、その顔には楽しそうな笑みが浮かんでいた。
その視線の先には、ベッドの上で拷問に耐えようとして身悶えする赤毛の妖精がいた。
「ああ!!ん・・・いあっ!!ああん!!うん・・・・・ふああ!!」
声を出すまいとしているようだが、耐え切れずに声を上げる。
彼女の肌は上気して、ほんのり薄紅色に染まっている。形の良い乳房は彼女の動きに合わせて激しく揺れる。秘密の花園には振動する棒状のものが入っている。おそらく、これも彼が作ったものなのだろう。花園からは透明な蜜が流れ出ている。
「ほらほら、後7分も残ってますよ。頑張りなさぁい。」
嘲笑に近い笑顔と口調を、悶えるロザリーに向けるハルファス。
「うんっ・・・く、ああ!!あ!!ああん!!」
歯を食いしばるが、次々と押し寄せる快楽の波に再び声を上げてしまう。
「後6分。」
本に目を落としながら告げるハルファス。
「いつまでイカずに耐えられますかね?」
半笑いで呟くかすれ声。ベッドのほうからは快楽に呻く声が聞こえてきていた。

「さて、約束の10分です。」
ハルファスは読んでいた本を閉じて立ち上がった。ベッドに横たわるロザリーのもとに歩いていく。
「あああ!!ああん!!あっ!!ああ!!はああん!!」
すでに声を抑え切れなくなり、快楽に身をよじり、悶え、喘ぐロザリー。この10分間の間に何度もきた快感の痕跡が、秘密の花園からあふれ出ている蜜の量でわかる。
「ロザリー、残念ながら貴女はこの拷問に声を出し、耐え切れませんでした。そういうわけですから、もう見逃すわけにはいきませんねぇ。」
ベッドの端に座り、ハルファスはにたにたと笑いながらロザリーに囁く。同時に乳房を愛撫する。
「ああ!!」
ロザリーの体がビクリと反応する。乳房の片方を白い手が弄び、もう片方の先を血色の舌が舐める。
「ああ!!あん!!いやあ!!ああん!!」
3ヶ所から同時に来る快楽に、悦びの声を上げる彼女の喉。と、突然、ハルファスは手と舌の動きを止め、花園から棒を引っこ抜いた。震え続ける棒から蜜がボタボタと滴り落ちる。
「やあああああ!!なんでやめるの!?」
ロザリーは半狂乱になって叫んだ。
「なぜ?貴女が嫌だとおっしゃったから、やめてあげたんじゃございませんか。どうです?僕は慈悲深いでしょう?」
ハルファスは片手を己の胸に当てて意地悪く笑う。
「いやあああ!!やめないで!!」
2つの湖から涙をこぼしながら懇願する美女。
「おや、それが人にものを頼む態度ですか?人に何かして欲しい時は、何て言うんでしたっけ?」
ロザリーの顎をクイッと持ち上げなじるハルファス。
「お・・・が・・・・・ます。」
「え?よく聞こえませんねぇ。もう少しはっきりおっしゃって頂かないと。」
喘ぎながら喋るロザリーに、冷たく告げるハルファス。
「お願い、しますぅ!!」
ロザリーはやっとのことで声を絞り出してはっきりと答えた。完全な敗北宣言だった。
その返答に満足げに微笑む赤い星のような目。
「よろしい。」
そう述べると、彼女と接吻するハルファス。どちらからともなく舌を伸ばし、絡まらせる。両者の口中に血の味が広がる。白い片手は再び乳房を弄び、もう一方では細長い指が花園の中に沈む。中は蜜であふれ、指を溶かしそうなほど熱かった。指が花園の中をかき回す。
「んんっ!!んん!!んんん!!」
愛撫のたびに、ロザリーの口から甘い吐息が漏れる。
細長い指が花園の内外を往復するごとに、吐息の大きさは増していく。
「んあああ!!」
とうとう口を離して声を上げる妖精。同時に花園がギュッと指をくわえる。
「くわえるものが違うんじゃありませんか?」
「だっ・・・て、か、体がぁ、勝手に・・・。」
底意地の悪いハルファスの問いに、息も絶え絶えにロザリーが反論する。
「貴女の体に、本当にここにくわえるべき物を教えてやりますよ。」
ハルファスはそう言うと、花園から指を引き抜き、着ている物を全て脱ぎ、ロザリーの足のロープを外し、その美しい裸体の上に跨る。
彼の体はまるで白い柳の木のように細い。彼の高い身長に合わせるかのように、長い手足が枝のように体から伸びている。その真っ白な細い体には、歴戦の傷痕がいくつも付いていた。もっとも、彼の顔に比べればそれほどひどいものではなかったが。
「入れますよ。」
ロザリーの耳元でかすれた声で囁くハルファス。真っ白な自身を花園にあてがい、グッと進めていく。
「あ!!痛っ!!」
侵入してくるものの大きさに、悲鳴を上げるロザリー。悲痛な声を聞いたハルファスは勢いを弱め、ゆっくりと入れてやる。
「あ・・・ああ!んあ!!ああ!!」
進めていくたびに、悦びの声を出す赤毛の妖精。
少しずつ、時間をかけて、完全にハルファスがロザリーの中に沈んだ。背中の白い翼を、自身と彼女を包み込むように広げる。
ロザリーのしなやかな腰を掴むと、ハルファスはゆっくりと動き出した。
「ああ!!あん!!ふああ!!ああ!!」
自分の中で動くものを感じるたびに、ロザリーはどんどんハルファスをきつくくわえ込む。
「くっ、僕を、食い千切る気ですか?」
あまりの締め付けに、顔を歪ませるハルファス。
「違、あ!!ああん!!あああ!!」
答えるロザリーの花園から赤い蜜が流れ落ちる。
「貴女、処女だったんですか。」
流れ出た蜜の色を見て呟くハルファス。
「やあ!!見な、ああ!!ああん!!」
羞恥心に叫ぶロザリー。だんだんハルファスの動きが早くなる。
「あっあっあっあっあっ!!ああ!!ああん!!あっあっあっあっ!!」
「うっ・・・くっ・・・!」
2つの歓喜の声が部屋中に響く。肉体の動きが激しくなる。
「ああ!!もうダメ!!イ、イックぅーーーーーっ!!」
「ぐっ・・・こっちも限界だ。」
そろそろ互いに限界が近づき、ハルファスは腰の動きを一気に早める。
「ああ!!いあああ!!ダメ!!イッ、イッちゃう!!あああ!!イクぅーーーーー!!」
激しい快感の波にロザリーは絶頂に達し、ハルファスを強く締め付けた。
「うっ!」
締め付けの強さに、彼は自分に劣らぬほど白い液体を彼女の中に放つ。
「あう!!」
体の中に放たれた欲望を感じ、彼女は弓なりに背を反らす。
妖精と魔族は同時に達し、昇天した。

「なぜだ?」
シャワーを浴びながらハルファスは自問していた。
「本当は、生きたまま手足をもぎ取って、本人の目の前でそれを貪り食ってやるはずだったのに・・・。あいつを犯すつもりなんて無かったのに・・・。」
うつむいて両方の手のひらを見つめ、グッと握り締めた。
彼の心の中では、何かをやり遂げた達成感と、胸に穴の開いたような虚しさが入り混じった、何とも言い難い複雑な感情が渦巻いていた。
「なのに、なぜなんだ?」
魔族の呟きは、シャワーの音にかき消された。

「どうして?」
ベッドの中でロザリーは自問していた。彼女は城主の用意した新しい服を着せられていた。ただし、手は縛ったまま、足は再び縛られ、首輪もそのままだ。
「あいつは私を辱めてたのに、なんで自ら求めてしまったの?」
彼女の胸中で、敗北し、犯された悔しさと、長年の願いが叶ったような嬉しさが手を取り踊っていた。
「どうして?どうしてなの?」
ベッドの中でどちらともつかない涙を流す妖精。
ふと、入り口のほうで物音がした。
「ハルファス?」
ロザリーは尋ねたが、相手からの返事は無い。やがてドアが開き、何かが部屋の中に入ってきた。目がハルファスと同じように光っていたが、彼よりも低い位置だった。しかも、全身真っ黒な毛で覆われており、トタトタと足音がするたびにふさふさと揺れる。その何者かはこちらへ向かってくる。
「ガルム、こんな所へ来てたんですか。探しましたよ。」
黒い侵入者への恐怖に、ロザリーが思わず悲鳴を上げそうになった時、ハルファスが浴室から帰ってきた。きちんと先ほどの服を着用し、真っ白な髪からは水が数滴ほど滴り落ちている。
ガルムと呼ばれた黒い侵入者は、嬉しそうに尾を振ってハルファスのほうへと歩み寄っていった。
「ガルム?」
ロザリーがそう呟いた時、ろうそくの明かりの下で初めてガルムの姿が見えた。犬だ。全身真っ黒の大きなボーダーコリー。ガルムはハルファスの足に擦り寄り、クンクンと鼻を鳴らして甘えた。
「僕の親友です。ねえ、ガルム。」
ロザリーにそう紹介すると、ハルファスはガルムに微笑み、その頭を撫でた。一瞬だけ、あの頃の優しい笑顔が彼の顔に蘇った。
「僕と同じです。この子も、見た目が変わっているってだけで虐げられてました。」
ハルファスの瞳が悲しみに曇った。
不思議に思ったロザリーがガルムのほうに目を移すと、ガルムの腕が片方無いのに気が付いた。ガルムはそれでも懸命に、自分の頭を撫でる白い手にじゃれついている。手の主もそれを拒むことなく受け止めてやる。優しい、穏やかな輝きが、彼のピジョンブラッドの目から放たれていた。
しかし、妖精のほうを向いた時、目の輝きは残酷な光に戻っていた。
「すぐにでも食い殺そうと思いましたが、気が変わりました。貴女を一生の間この城に置き、僕が感じた苦しみ、痛みを味あわせ続けて差し上げます。この城での生活と衣料、食事は保証致しましょう。これだけの好待遇を受けられる捕虜はいませんよ。命があるだけでも感謝するんですね。」
そう告げるとクルリときびすを返し、ガルムと共に部屋から去った。
1人部屋に取り残されたロザリーはただ泣くしかなかった。

「ねえガルム、僕はどうかしてしまったのでしょうか?」
別室にある食卓で、食後の水を飲みつつ、すぐそばに座るガルムに話しかけるハルファス。彼の言葉に首を傾げるガルム。
「今まで数多くの者の命を奪ってきたこの僕が、手を血で染め続けてきたこの僕が、憎いロザリーと交わるなんて、あいつを生き長らえさせてしまうなんて・・・。」
ガルムにというより、自分自身に問いかけるように語るハルファス。ガルムはハルファスの膝の上に乗り上がり、彼の手の甲をペロペロと舐めた。
「こんなことを言う僕は、やっぱりおかしいですか?」
自嘲気味に笑い、ガルムの背を撫でた。背を撫でられて、ガルムは嬉しそうに尾を振った。

「食事の時間です。ありがたくお食べなさい。」
食料を乗せたトレーを片手に、ハルファスが部屋にやってきた。どこかで待っているのか、ガルムはいなかった。
「まさか、これも人肉?」
目の前にドンッと置かれた山盛りの物体を見つめながら尋ねるロザリー。
「当然です。言ったでしょう、僕はもう人肉以外食せない体なんです。」
フンッと鼻を鳴らし、ベッドの上の人物を縛るロープを解きながら見下ろすハルファス。
「嫌よ!誰が人肉なんか食べるもんですか!」
「嫌なら、飢え死にするしかないですね。ここにはこれ以外の食料はございません。」
「そんなもの食べるくらいなら、貴方みたいに外道に堕ちるくらいなら、餓死したほうがましだわ!」
「ああ僕は堕ちたよ!!だが僕はこれを食って生き延びたんだ!!」
ハルファスのかすれた大声が部屋中に響いた。
「あの島で、僕は人肉を食って生きてきた!!それしか食べるものが無かったからな!!獲物を襲い、殺し、肉を貪り、血を啜り、骨の隋までしゃぶりつくした!!腹が減ればまた襲い、殺し・・・その繰り返し!!まさに生き地獄だったぞ!!僕だって本当は嫌だった!!でも死にたくはなかった!!生きるためには人肉を食らうしかなかった!!死にたくない一心で、吐きそうなのを必死に、無理矢理胃袋へ押し込んだ!!そうして気付いたら、人肉以外何も口にできなくなっていたんだ!!」
やがて彼は肩で荒い息をしながらロザリーを睨むように見据えた。焼け爛れた顔が醜く歪み、地獄の業火のように燃え上がる瞳。
「お前なんかには想像できんだろうな。毎日毎日、罪悪感にさいなまれ、自己嫌悪に苦しみ、世を呪い、己の宿命を恨み続けたあの日々が。日常生活に戻れても、調理された物が食べられなくなったとわかった時のあの悲しみが。顔や声ばかりでなく、ささやかな普通の幸せさえ奪われた絶望が。」
ハルファスはギリっと歯を食いしばる。辛い、苦々しそうな表情が白い顔を横切る。
「本当は、僕だって、普通の生活を送りたい、日の光の下を歩きたい、平和に暮らしたい、幸せになりたい。けど、そんなことを望むのは、鮮血で汚れきったこの僕には不相応なことなのさ。僕にはそんなことを願うことさえ許されない。生きる限り、永遠に、地獄の中をさまよい続ける。それが、生への執着で血に塗れた僕に残された、ただ一つの道だ。」
かすれた声が響く。悲しみと自嘲とが混ざった血色の眼差しが、石造りの床へ落ちる。
「ハルファス・・・。」
「・・・ガルムが呼んでます。戻ってくるまでに食べておきなさい。」
ロザリーに決して顔を見せないように背を向け、ドアへと足早に向かうハルファス。だが、ロザリーは見逃さなかった。血色の目に涙が浮かんでいるのを。
「辛かったのね・・・・・。」
すでに居なくなった青年に、ロザリーの声は届かなかった。

廊下に座り込み、壁に背を預け、片手で顔を覆っている城の主。黒い毛並みの友が心配そうに駆け寄ってきた。ガルムは白い友人の頬を優しく舐めた。
「ガルム・・・・・。」
顔を覆っていた手を除け、涙で揺れる赤い瞳孔にガルムを映す。
「キューン、クーン。」
「・・・すみません。こんな醜態、貴方にお見せするつもりじゃなかったんです。」
悲しげに鳴くガルムを抱き締めるように、その首にすがりつくハルファス。
「本当に、一体僕はどうしてしまったんだ?あいつの前で、自分の感情をさらけ出すなんて・・・。」
ピジョンブラッドアイから涙が零れ落ち、黒い毛を伝って、床に染み渡る。

「私のせいだわ。」
ロザリーは部屋の中で自分を責めていた。
「私が、あの時『出来損ない』なんて言わなければ、お茶をかけなければ、助けを求める声に応じていれば、彼を傷付けることはなかった。彼を苦しませることにならなかった。彼に地獄を歩ませることもなかった。彼の幸せを奪ったのは私、彼の人生を狂わせたのも私、全部私、私のせい。」
その時、地の底から響くようなパイプオルガンの音色が聞こえてきた。そのメロディーは怒り、憎しみ、悲しみ、恐怖、絶望・・・そういった負の感情を全て注ぎ込み、混ぜたようなものだった。聞いているだけで涙があふれ、胸が張り裂けそうだった。
「ハルファス・・・ごめんなさい。」
アクアブルーアイから零れ落ちる水晶は、白いシーツの中に吸い込まれていく。

「ふう、久しぶりに弾いたな。この曲。」
パイプオルガンの鍵盤に手を置き、体を後ろに反らせて伸びをする白い魔族。
城の地下には巨大なパイプオルガンを収める部屋があり、彼は日に一回ここへ来て、自作の曲を弾くのを日課としているのだった。
「さて、そろそろ戻るか。」
身のこなしも軽やかに、椅子から立ち上がるハルファス。その目にはすでに涙は無かった。手を軽く振って道具類を片付けた後、妖精の待つ部屋へと足を向けた。

部屋へと戻ってきたハルファス。ベッドのほうをちらりと見て、まだ残っている肉の山を確認した。それから、視線をベッドの上にいる赤毛の妖精へと移し、
「おや?1切れも食べてないのですか?よっぽど死にたいらしいですねぇ。」
と嘲り笑った。ところが、予想していた返事とは違う言葉が彼女の口から出た。
「そうかもしれない。私、貴方と違って意気地無しだから・・・。」
「な、何を突然!?」
美女の弱々しい発言に困惑の目を向ける青年。
「私が、私があの時お茶をかけなければ、貴方の顔が傷つくことは無かった。あの時貴方を助けていれば、貴方が人肉を食べるようなことは無かった。ごめんなさいハルファス、ごめんなさい、ごめんなさい・・・。」
2つの湖から涙をあふれさせて謝るロザリー。
「ふ、ふん!泣き落としで誤魔化そうとしたって無駄ですからね!」
ハルファスは慌てたように部屋から出て、バタンとドアを閉めた。ドアに背を預け、ズルズルに焼け爛れた顔を歪める青年。
「・・・・・なぜだ、なぜこんなに胸が痛む?」
ロザリーの涙を見た瞬間、ハルファスの胸がズキリと痛んだ。シャツの胸元を握り締め、この痛みを何とか抑えようとした。だが抑えきれない、むしろ痛みが増すだけ。後ろからはドア越しにロザリーの泣き声が聞こえる。心臓の鼓動と共に増す痛み。
「くそっ!何なんだこの痛みは?」
彼は自分でもわからない痛みを抱えたまま、体を引きずるようにしてガルムの待つ部屋へと向かい、ベッドにそのまま倒れるように眠った。しかし、ロザリーの姿が目に焼きついて、夢の中にまで出てきた。

1話 2話 3話 4話 5話 6話 7話 
戻る

更新日:2010-01-10

評価ボタン
☆好き!! 1 ◎良い! 0 ○普通 0